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駅伝・駒澤大はなぜ、あの声でスイッチが入るのか
−「男だろ!」で人が動く理由−

駅伝・駒澤大はなぜ、あの声でスイッチが入るのか
著者
出版社 ベースボール
・マガジン社
出版年月 2015年10月
価格 \1,400(税別)
入手場所 ブックオフ
書評掲載 2017年11月
★★★☆☆

 年を追うごとに注目度が高まっている箱根駅伝は、マスメディアにとっても欠くことのできないビッグイベントに成長しつつある。
 トップを走る選手を写すだけではなく、後続の順位争いやシード権争いに加え、近年は監督の一挙手一投足まで映像化され、沿道で檄を飛ばす声すらマイクに拾われることも珍しくなくなった。
 特に優勝候補と目されている大学監督は常にテレビカメラに追われざるを得ない。ここ数年は、青山学院大の原晋や、東洋大の酒井俊幸らが注目されているが、20年以上にわたって常に注目され続けてきた監督がいる。
 それが本書の著者・駒澤大の大八木弘明だ。

 大八木といえば、沿道から激しく檄を飛ばす姿がテレビカメラに捉えられ、気性が激しい「熱い」男というイメージがある。
 本書はまさにそのイメージをそのままタイトルに掲げ、学生の心をつかむ人心掌握術を探りながら、大八木の育ってきた環境や、自身の指導哲学を記した一冊だ。
 いまでこそ大学駅伝では常に優勝候補に挙げられるほど常勝軍団として名を馳せているが、著者が就任当時は予選会突破も危ぶまれるほどの危機的状況だったという。
 実業団・ヤクルトのコーチとして奥山光広(1991年世界選手権東京大会1,500m代表)を育てるなど、国際レベルで活躍する選手育成にコーチ業に燃えていた著者に白羽の矢が立ったのはそんな時期だった。
 すでに埼玉にマイホームも購入し、愛娘も生まれたばかりのタイミングだ。
 しかも駒澤大コーチとしての契約条件は嘱託職員という不安定な身分だという。
 OBとはいえ、どん底チームのコーチ就任は貧乏くじを引くようなものだと思っていた(P125)と語るように、悩みに悩んだ末にマイホームを手放し、退路を断って駒澤大コーチに就任する過程は、著者が「縁(えにし)」を大切にしている哲学を表現しているようだ。

 著者がコーチに就任以降は、荒れた生活が多かった学生に対して厳しいルールを課すなど、上級生を中心に退部者が続出したようだが、就任初年度は予選会をギリギリ6位で本選出場し、その後の活躍は言わずもがなだ。
 「平成の常勝軍団」と称されて久しいが、著者が卓越した指導者として称される理由は、チームとしての駅伝で好成績を収めているだけではなく、個人競技においても国際レベルの選手を毎年のように輩出している点だろう。
 とりわけ、高校時代に無名だった藤田敦史は、著者の生活指導や練習メニューを通じてマラソン学生最高記録を樹立し、大学卒業後もマラソン日本最高記録更新、世界選手権出場などの偉業を達成している。
 著者が本書で一貫して述べているように、学生時代だけではなく、大学卒業後も活躍できるようになってほしいという願いが、学生に慕われる所以なのだろう。

 個人的には、著者は私の陸上競技人生においても非常に印象深い人物だ。
 私が高校時代に競技を始めてから初めて購入した陸上関連の書籍が、有吉正博著「長距離・マラソン・駅伝だったのだが、その表紙を飾っていたのが、箱根駅伝を走る著者だった。
 誰だろう、この「オッサン顔」はと思いながら読んでいたが、実業団を経て、箱根駅伝への憧れを捨てきれずに働きながら夜間大学に通っていたエピソードを知った時は、自分がいかに甘えた考え方で大学に通っていたかを痛感されたことを覚えている。
 一度も面識がない人物ではあるが、テレビの奥から「男だろ!」「情けない姿を見せるな!」」と選手に対して激しい檄を飛ばす声を聞くたびに、コタツに入りながらぬくぬくと駅伝を見ている自分に向けられているかのようで、背筋が伸びてしまう。

参考書籍:
生江有二著「タスキを繋げ!−大八木弘明−駒大駅伝を作り上げた男−
大八木弘明著「育てて活かして勝つ−常勝軍団はこうして作られた−

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