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タスキを繋げ!
−大八木弘明−駒大駅伝を作り上げた男−

タスキを繋げ!
著者 生江有二
出版社 晋遊舎
出版年月 2008年7月
価格 \1,500
入手場所 bk1
書評掲載 2008年8月
★★★★☆

 今年(2008年)、84回目を数えた箱根駅伝で、3年ぶり6度目の優勝を飾った駒沢大学。優勝回数だけを数えるなら、中央大(14回)、早稲田大(12回)らに及ばないが、6回の優勝全てが、第72回大会以降の13年間に達成されている。
 テレビ放送が始まった影響で、各大学の競争が激烈にある近年にあって、これは瞠目すべき成績だ。
 駒大躍進の契機となった13年前。それは、現在陸上部監督を務める大八木弘明が、本格的に駒大の指導に携わることとなった年だ。

 実業団チーム・ヤクルトのコーチとしての安定した職を捨て、低迷する母校の指導者として意気揚々と就任した大八木だったが、泥だらけの合宿所、栄養バランスが考えられていない食事、山盛りの灰皿に衝撃を受けた就任当初。
 選手の意識改革、生活改善からスタートし、地道に競技環境を整えながら、高校時代には特筆すべき実績のなかった者が急速に力をつけ、藤田敦史らのように、日の丸を背負って走る選手を育てるなど、今や学生長距離界で最も卓越した指導者と呼ばれることに、もはや異論はないだろう。
 しかしまた、マスコミを通じて伝えられる大八木評は、競技会場で大声で叱咤する激しい口調と、練習で容赦なく罵倒する厳しいイメージがある。
 本書では、「闘将」とまで評される厳しい指導と、「勝利」に対する飽くなきこだわりを明らかにし、それらの理由を大八木の過去をさかのぼるようにして探っている。

 大八木は紛れもなく学生長距離界では最高の指導者のひとりだろう。その意味では貴重な単行本なのだろうが、残念なのはこれだけ濃密な過去を持ち、傑出した個性と指導力ある人物なのだから、もっと深くまで掘り下げてほしかった。
 既に陸上専門誌では同氏を特集する記事がいくつもされているので、内容的にはそれらの焼き直し的な記述が多かったように感じる。せっかくだから、現役部員や大学OB、果ては大八木を育てた指導者らからのエピソードがあれば、より中身の濃い内容になったのではないだろうか。
 また、人物や風景描写が乏しく、選手の表情やランニングフォームなどに触れることも少なく、平面的なイメージしか湧いてこない。

 目の付けどころとしては新鮮な感覚がしただけに、「レースの組み立て方」については、今後の改善を期待したい。

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