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必ずできる、もっとできる。

必ずできる、もっとできる。
著者
出版社 青春出版社
出版年月 2023年2月
税抜価格 1,500円
入手場所 楽天ブックス
書評掲載 2023年2月
★★★☆☆

 ここ数年、学生ランナーの成長が著しい。
 つい先日も別府大分毎日マラソン(2023年2月5日)で横田俊吾(青学大)が学生記録を塗り替える2時間7分47秒で4位に入る快走を見せてくれた。
 同日に行われた香川丸亀国際ハーフマラソンでも、篠原倖太郎(駒大)が日本歴代4位にランクインする1時間00分11秒で、こちらも日本人学生最高記録を上回った。
 国際的にも、3000m障害で三浦龍司(順大)が東京オリンピックで7位入賞を果たすなど、いまや学生ランナーの活躍が、日本陸上界を大いに盛り上げている。

 とりわけ、駒澤大学からはマラソン元日本記録保持者の藤田敦史や、2019年MGCを制した中村匠吾など、大学卒業後も活躍する選手は枚挙に暇がない。
 そんな数々の名ランナーを育て、学生長距離界の名将として知られる人物が、本書の著者・大八木弘明だ。

 いまや駒澤大学は「平成の常勝軍団」から「令和の常勝軍団」として名声を轟かせているが、著者が同チームコーチとして赴任した当初は、タバコや飲酒に溺れる学生が少なくないなど、学生の意識を変えることに粉骨砕身していたことは、過去の著書(タスキを繋げ! )などに詳しく書かれている。
 一方本書では、近年、学生駅伝で常に優勝候補に挙げられるほど優秀な選手を擁しながら、勝てそうで勝てない時期を振り返り、大八木自身が意識を変えようと苦悶していた様子が伝わってくる。

 たとえば、前述の藤田をして私の学生時代、チームのなかで監督の存在は絶対だった(P32)と語るなど、かつての著者は激しい熱量すら感じられる、いわば「昭和のオヤジ」を思い出させる圧倒的な存在だった。
 だが時代は変わり、いつしか一方通行の指導が空回りし、その熱意が学生に伝わっていないことを感じていく。
 学生が育ってきた家庭環境が変わり、厳しい父親像を知る若者が少なくなっていたのだ。
 そんな変化を敏感に感じ取り、「令和」の駒澤大学は自主性や個性を尊重していくやり方になっていくだろう(P193)と指導方針を現代流に改める著者の柔軟な考え方は、スポーツ指導者だけではなく、若手の育成に悩む管理職世代からも、ハッとさせられるヒントがあふれた一冊なのではないだろうか。

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