トップページへ戻る全作品リストへ戻る新書作品リストへ戻る

愛のコムスメ操縦術
−彼女たちをやる気にさせる方法−

愛のコムスメ操縦術
著者 小出義雄
出版社 集英社
出版年月 2009年6月
価格 \700(税別)
入手場所 平安堂書店
書評掲載 2009年10月
★★★☆☆

 書店に立ち寄ったときに、偶然目にした「カントク」の本。
 オビには紛れもなく、あの小出監督の優しい表情が「読んでみなさい」と私に訴えかけているのだが、手にするときに、思わず周囲を気にしてしまう。
 大量に刊行される新書のなかで注目を浴びたいとはいえ、いくらなんでもこのタイトルは、なんらかの誤解を招きかねない。
 ここで言う、「コムスメ」とは、感情の起伏が激しく、扱い方が難しいと言われがちな、いまどきの若い女性のことを指しているのだが、タイトルに象徴されるように、従来の著作に比べると、ややくだけた感じの記述が多く、著者の魅力でもある「明るいエロさ」が全開だ。
 そう、本書の趣旨は、まさにその「女性」に対する接し方だ。巻末には、「人生相談」のコーナーまで開設されていて、著者の持論が余すことなく展開されている。

 女性の社会進出が進展するにつれて、自由な時間とお金を手に入れた現代女性に対する接し方は、かつて男性に依存していた時代と同様で良いはずがない。
 著者は、いまどきの女性が育ってきた環境や、女性の心理を考慮できない指導者を事例に出しながら、彼女らに関心を持たせ、その気にさせる方法を指南している。
 その手腕の高さは、これまで数々の無名ランナーを世界トップレベルまで育ててきた実績が証明しているが、著者が本書で対象としている世界は、決してスポーツに限ったことではない。
 会社の上司として女性の部下を指導するため、夫として妻との愛情を保つため、思春期の娘との良好な親子関係を築くためなど、一生の間に遭遇する女性をめぐる数々の傾向と対策が紹介されている。

 もちろん、百戦錬磨の著者とて、いまどきの若い選手の心をつかむためには、何度となく試行錯誤してきたことが、本書から伝わってくる。
 では、昔と今では、一体何が変わったのだろうか。
 著者は、自分らが育ってきた頃に比べて、子どもを育てる環境が大きく変わったことを挙げ、「昔も今も、男と女が考えていることは同じです。(中略)ただひとつだけ違うのは教育で、子どもたちが親を親と思わない、親に手をかけちゃう。ここが変わったよね(P135)。」と憂いたり、「子どもを教育するときに、何でもラクを与えてしまう。それが良くないんです(P104)。」などと指摘したうえで、勉強一辺倒の教育に警鐘を鳴らし、人生の価値や生きる歓びを見出させる、親や教師による教育の重要性を熱く説いている。

 著者が若い選手の心をつかんで離さない魅力が伝わってくる教育論が満載なのだが、ではなぜ、著者の指導はとりわけ女性から好評なのだろうか?
 著者は、女性が社会進出し、男性と同等の役割認識が期待されている一方で、それぞれに対する指導はまったく異なると指摘している。
 独占欲や嫉妬心が強い女性だからこそ、分け隔てなく声をかけ、冗談を言いながら壁を溶かしてゆき、その気にさせてゆく。
 これはまるで、マラソンという厳しい競技の指導者というよりは、ホストクラブの心得を聞いているようだ。

トップページへ戻る全作品リストへ戻る新書作品リストへ戻る