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駅伝流
-早稲田はいかに人材を育て最強の組織となったか?-

駅伝流
著者 渡辺康幸
出版社 文春新書
出版年月 2011年11月
価格 \680(税別)
入手場所 Amazon.com
書評掲載 2012年10月
★★★☆☆

 箱根駅伝における早稲田大学といえば、言わずと知れた名門中の名門であり、高校生アスリートならば誰もが一度は憧れる存在だろう。
 しかし1990年代後半から2000年代前半は、テレビ中継開始に伴う新興勢力の拡大と並行し、一時の輝きを失っていたと言わざるを得ない時期があった。
 それはまさに、著者である渡辺康幸が早稲田大学を卒業した時期に重なる。

 渡辺康幸といえば、10000mで高校生初となる28分台を記録し、大学進学後もユニバーシアード優勝などの輝かしい成績を収め、将来を嘱望されていたランナーだ。
 そんな天才アスリートが、日本代表に選ばれていたアトランタオリンピックを故障欠場して以降、度重なるアキレス腱痛にも悩まされ、29歳という若さで引退を宣言した記事は、今も私の脳裏に強く残っている。
 そして著者は引退後に時を置かずして、母校・早稲田大学の指導者に転身した。
 およそ予想された範囲の決断ではあった一方で、勤務先のエスビー食品に籍を置きながら出向するという待遇に対しては、彼自身の「覚悟」の小ささを感じてしまい、早稲田の復活は程遠いと感じたこともよく覚えている。

 だが、早稲田は彼のもとで復活した。
 有力な高校生に対して地道なスカウト活動をする一方で、大学側のバックアップやスポンサー企業の獲得、さらには合宿所の新築や、これまでの「悪しき伝統(P61)」だったOBの過剰な介入にも大ナタを振るい、伝統にあぐらをかいていたと言われたチームを変革することに成功した。
 そして2011年の箱根駅伝では、あの柏原選手を擁する東洋大を僅差で抑え、悲願の復活優勝を成し遂げた。
 周囲の不安をはねのけつつ、大胆な改革を経て目標を成し遂げた点については喝采を送りたい。

 一方で、本当に指導者としての手腕が問われるのは、これからだろう。
 伝統校を変えることには成功したかもしれないが、変革期を乗り越え、安定した成績を収めてこそ、名指導者と評価される条件だろう。
 というのも、本書を読んでいて、彼の心の弱さ、未熟さが目につき、やはり指導者としては心許ないと感じさせられた点が多かった。
 特に、自身が引退を決断した経緯について語っているP142以降の数ページは、「少々の挫折でさっさとあきらめてしまうお坊っちゃま」の印象を残してしまい、学生に訴えかけるだけの人生経験が不足しているのではないかという気にさせてしまう。
 そんな意味では、「最強の組織」と呼ぶのはまだ早すぎるのではないだろうか。

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