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チームV

チーム3
著者
出版社 実業之日本社
出版年月 2020年3月
価格 1,700円
入手場所 市立図書館
書評掲載 2020年5月
★★★☆☆

 日本の男子マラソンが熱い。
 2018年2月の東京マラソンで、設楽悠太が16年ぶりに日本記録を破るや否や、その半年後には大迫傑がそれを塗り替え、年末には服部勇馬が福岡国際マラソンを日本人として14年ぶりに制した。
 その勢いは途切れることなく、東京オリンピック代表を決する2019年のMGCでは、最後まで熾烈なデッドヒートが繰り広げられ、マラソンという単調なスポーツが、いかに魅力あるものかを痛感させられた。

 リアルな世界でこれほど熱く盛り上がっているのだから、この熾烈な世界を小説にしたらどれほど面白いことだろう。
 そう思っていた矢先に、やはりこの男が書いてくれた。
 箱根駅伝での学連選抜に焦点を当てた「チーム
 そこでエースを務めていた山城悟が、マラソン日本記録更新に挑む「ヒート
 そして、故障により選手生命の危機を迎えた山城を、かつての学連選抜メンバーが支えた「チームU
 天才ランナー・山城と、学連選抜時代のチームメイトとの人間模様を描くこのシリーズから、東京オリンピック日本代表を目指す、新たな主役が本書で登場する。
 日向誠は、学生時代よりマラソンで頭角を現し、次代を担うホープとして期待されているものの、いま原因不明のスランプに悩んでいる。
 そんな日向の専任コーチとして白羽の矢が立ったのは、同じく天才ランナーとして名を馳せた山城悟だ。

 山城といえば、競技以外のことは徹底的に忌避するがゆえに、孤高を貫き、心を許す仲間も少ない。
 彼は選手として有能だったかもしれないが、およそ引退後の社会になじめるとも思えない。いくら日向がスランプに陥っているとはいえ、もう少し適任者がいるのではないだろうか?
 そんな疑念があがるなか、かつて学連選抜のキャプテンとして山城をよく知る浦大地は、今の日向には、劇薬が必要なのだ(P33)と、譲らない。
 一方、誘われた山城も、俺にはコーチはできない。人に教えるのは苦手だ。そもそも俺は、人と話すのが嫌いだ(P50)と完全拒否の姿勢を貫くのだが、家族や昔のチームメイトから裏工作まがいの説得を繰り返され、ついには、学連選抜で監督を務めた吉池からの最後のメッセージに、心動かされる。

 日向がスランプに陥っている真の原因はなんなのか?
 徹底した合理主義者のように思えた山城はしかし、日向を孤島の田舎で長期合宿を強行させ、周囲が懸念するほどの走り込みを命ずる。
 一見すると旧態依然とした根性主義のようだが、山城が見抜いた日向の弱点は、決して表面的な要因だけではなかった。
 本書の魅力は、マラソンという競技は心技体が揃わなければ戦えない繊細なスポーツであることを、ストーリーのなかに絶妙に溶け込ませている点にある。
 その意味では、競技経験者にとって共感できるシーンが多いのだが、一方で、真夏の北海道マラソンで、現在でも山城が持つ日本記録・二時間五分一秒に五秒まで肉薄するタイムを叩き出した(P8)という、冒頭から信じられない人物設定が紹介され、ほかにも、大学生の代表的なレースとしてインターハイ(P189)を挙げるなど、細かなところで「分かっていない感」が伝わってきてしまうのが残念だ。

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