父は元陸上競技選手で、スプリンターとしてインターハイにも出場したことがある。
小学3年の妹・ひらりは運動神経抜群で、自転車の補助輪を早々に外し、鉄棒の逆上がりもいつの間にかできていた。
それに比べて、走哉は何をやらせてもからっきしだ。
ひらりが小学校入学以来欠かさず選ばれているリレーメンバーにも、走哉は一度も選ばれたことがない。
小学校6年の走哉にとって、今年がラストチャンス。
学校が終わると父がコーチとなって、公園で練習を行ってきたが・・・結局リレー選手にはなれなかった。
悔しい。
父さんの運動神経は、きっとおれを素通りして、ひらりにだけ遺伝したんだ。なのに父さんは、努力が足りないっていつも言う (P16)。
そんな自暴自棄に陥るも、父さんに誘われるまま早朝ランニングに出かけてみると、これが意外と自分に合っている気がする。
いつものダッシュではなく、住宅街をグルリと回るランニング。
ボールを使ったり、ラケットを持ったりするわけでもなく、ただ自分の足を動かしているだけなのに、自分の体と会話しているような不思議な気分。
それは走哉にとって初めての感覚だった。
もっと長く走りたい。もっと速く走りたい。
ふつふつとこみ上げる新鮮な感覚を抱き始めた頃、先生から配られた「地区駅伝のお知らせ」。
出たい!
運動会ではからっきしダメだったけれど、あれから毎朝ランニングを続けているし、ひとり2キロだったら頑張れば走りきる自信がある。
でも問題はメンバーだ。
親友の陸は喘息を抱え、趣味はテレビゲームのインドア派だ。
他にも心当たりの友人に声をかけてはみるものの、よい返事は得られない。
そんな時に、去年の駅伝で入賞したチームのメンバーから、誘いの声がかかった。
メンバーの一人が捻挫したため、補欠要員として誘われたのだ。
補欠だったら走るチャンスはないだろうと諦めていたのだが、なんと、走哉が駅伝本番で走るチャンスがやってきてしまう。
前の走者を待つ緊張感。
声援のなかを走る高揚感。
走る息遣いが聞こえてきそうな臨場感ある描写で、思わず「がんばれ!」と声をかけてしまいそうになる。
何をやらせても自信のない少年が、スポーツを通じて成長する姿を描いた本書は、児童文学としてお勧めの作品だ。
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