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駅伝ランナー

駅伝ランナー
著者
出版社 KADOKAWA
出版年月 2015年10月
価格 480円
入手場所 平安堂書店
書評掲載 2020年6月
★★★☆☆

 父は元陸上競技選手で、スプリンターとしてインターハイにも出場したことがある。
 小学3年の妹・ひらりは運動神経抜群で、自転車の補助輪を早々に外し、鉄棒の逆上がりもいつの間にかできていた。
 それに比べて、走哉は何をやらせてもからっきしだ。
 ひらりが小学校入学以来欠かさず選ばれているリレーメンバーにも、走哉は一度も選ばれたことがない。
 小学校6年の走哉にとって、今年がラストチャンス。
 学校が終わると父がコーチとなって、公園で練習を行ってきたが・・・結局リレー選手にはなれなかった。

 悔しい。
 父さんの運動神経は、きっとおれを素通りして、ひらりにだけ遺伝したんだ。なのに父さんは、努力が足りないっていつも言う(P16)。
 そんな自暴自棄に陥るも、父さんに誘われるまま早朝ランニングに出かけてみると、これが意外と自分に合っている気がする。
 いつものダッシュではなく、住宅街をグルリと回るランニング。
 ボールを使ったり、ラケットを持ったりするわけでもなく、ただ自分の足を動かしているだけなのに、自分の体と会話しているような不思議な気分。
 それは走哉にとって初めての感覚だった。

 もっと長く走りたい。もっと速く走りたい。
 ふつふつとこみ上げる新鮮な感覚を抱き始めた頃、先生から配られた「地区駅伝のお知らせ」。
 出たい!
 運動会ではからっきしダメだったけれど、あれから毎朝ランニングを続けているし、ひとり2キロだったら頑張れば走りきる自信がある。
 でも問題はメンバーだ。
 親友の陸は喘息を抱え、趣味はテレビゲームのインドア派だ。
 他にも心当たりの友人に声をかけてはみるものの、よい返事は得られない。

 そんな時に、去年の駅伝で入賞したチームのメンバーから、誘いの声がかかった。
 メンバーの一人が捻挫したため、補欠要員として誘われたのだ。
 補欠だったら走るチャンスはないだろうと諦めていたのだが、なんと、走哉が駅伝本番で走るチャンスがやってきてしまう。
 前の走者を待つ緊張感。
 声援のなかを走る高揚感。
 走る息遣いが聞こえてきそうな臨場感ある描写で、思わず「がんばれ!」と声をかけてしまいそうになる。
 何をやらせても自信のない少年が、スポーツを通じて成長する姿を描いた本書は、児童文学としてお勧めの作品だ。

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