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スポーツ毒親
暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか

スポーツ毒親
著者
出版社 文藝春秋
出版年月 2022年5月
税抜価格 1,400円
入手場所 市立図書館 
書評掲載 2022年10月
★★★★☆

 2004年12月に横浜の市立中学校で、柔道部の顧問が練習という名目で嫌がる息子に壮絶な暴力(P197)を振るい、高次脳機能障害を負わせたとされる事件や、2008年3月に、地裁で複数の生徒に対する性的暴行罪により元女子バスケットボールコーチに懲役11年の判決が下された(P103)事件など、体育会系部活動における暴力報道があとを絶たない。
 しかも、前者の加害者は講道館杯全日本柔道体重別選手権大会で優勝したこともある柔道家(P197)であり、後者の加害者は九州の私立高校を全国大会準優勝まで導くなど、名コーチとして生徒の親からの信頼も厚かったという。

 「行き過ぎた指導」と言うと、悪意をオブラートに包む曖昧さを感じてしまうものの、立場の弱い生徒らに対して身体的、そして精神的に大きな傷を負わせる行為は、紛れもなく犯罪行為だろう。
 では、子どもがそのような理不尽な目にあっていることを知りながら、親は子どもを守ってくれないのだろうか?
 それこそが本書がテーマにしている本質であり、日本が抱える社会的病巣だ。

 著者はこれら数々の不条理な現場を取材する過程で、今の親世代はまだ自分たちがたたかれたり、殴られたりする指導を当然と受け止めてきた世代だ。スポーツ経験のある親ほど「あの厳しい指導を乗り越えたからこそ今の私がある」と思い込みがちだ。とその心理状況を推察し、途中で脱落した仲間は「弱い人間」と見なす(P54)ことで、自らが他よりも優れ、弱者を見下す排除の論理がはびこっているのではないかと分析する。

 本書では、前述した息子の被害を二度と起こしてはならないと「全国柔道事故被害者の会」を立ち上げた会長を取材し、日本では当然と思われがちな武道系の死亡事故が、海外では全く発生していないという客観的事実を紹介してくれる。
 これら勝利至上主義の暴言・暴力が日本でまかり通る背景として、著者は親の自己肯定感の低さが、危険な指導者を抑制する行動が取れないのではないかと指摘する。
 著者は日本人が国際的には自己肯定感が低い、という調査結果を紹介し、そんな私達が親になって子どもがスポーツで少しでも秀でると、過度に期待する傾向がある。(中略)活躍すればよいけれど、そうでなくなると期待したぶん怒りがこみ上げる。この構造は受験が絡む教育虐待とも似ていた(P191)と考える著者の推察には、共感を禁じ得ない。
 子どもたちが萎縮せず、自ら考え、自ら行動する環境を育むことこそ、学校体育の本質であり、社会体育が支えなければならない義務なのだろう。
 本書はスポーツに限らず、未来を担う子どもを育てる、全ての大人たちに、読んでもらいたい一冊だ。

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