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Number1030 大特集!走る。

Number1030
著者
出版社 文藝春秋
出版年月 2021年7月
価格 582円
入手場所 平安堂書店
書評掲載 2021年8月
★★★★☆

 東京オリンピックが昨日閉幕した。
 競技以外での話題に欠かなかった皮肉があるにせよ、アスリート目線においては、地元で行われた世界最高峰の大会で躍動する日本人選手の活躍を、リアルタイムで観戦できたことはこの上ない幸せであり、とりわけ陸上競技は走・跳・投・歩と充実の布陣で、連日テレビの前で大いに盛り上がった。
 残念ながら、期待された男子短距離種目では、100m、200mとも予選落ちで、伝統の4継も決勝で痛恨のバトンミスに終わるなど、実力を十分に発揮できなかったが、「日本人でも勝てるんじゃないか」と夢を見させてくれたことは誇りに思いたい。
 そう、100m9秒台という、これまで考えられなかった好記録をバンバン叩き出してくれたことは、まぎれもない事実なのだ。

 このビッグイベントを前に、日本を代表するスポーツ専門誌が「東京五輪プレビュー第1弾」として厳選した特集は「走る。」だ。
 かつてないハイレベルな争いとなった男子100mの代表選考レースとなった、6月の日本選手権では、切れ味鋭いスタートダッシュを見せた多田修平が逃げ切った。
 一方で、わずか19日前に9秒95の日本新記録を叩き出していた山縣亮太は3着に沈み、ハイレベルでスリリングな競技の魅力を知らしめてくれた。
 本誌は、そんな日本中の期待を一身に集める山縣の心境について特に詳細に伝えていて、彼のトレーナーを務める白石宏を通じて語られるドキュメント「果てなきデッドヒート(鈴木忠平)」は緊迫感に溢れている。

 だがもちろん、東京オリンピックで活躍が期待される種目は、短距離だけではない。
 とりわけ男子マラソンでは、日本記録を2回も塗り替えた大迫傑に期待が集まっている。
 大迫傑といえば、従来より日本の成功モデルとされてきた、実業団に所属する安定した生き方を放棄し、米国を拠点にプロアスリートとして退路を断った異色のアスリートとして知られている。
 常に自らの信念に基づく行動を実践する彼の決断に、誰もが驚かされたはずだが、結果を出し続けることで周囲を納得させてきた。
 そんな彼が東京オリンピック・マラソン本番の1週間前に発した、ラストラン発言には、さすがに日本人全員が度肝を抜かれたに違いない。
 大迫はまだ30歳。マラソンはこれからが成長を期待される競技であることもさることながら、自らプレッシャーをかける発言には、違和感を覚えてしまった。

 しかし、本誌を読んで彼の覚悟も理解できた気がする。
 6ページに及ぶ特集記事を組み、コロナ禍で取材を強行した旧知の記者(松本昇大)が捉えた大迫の米国合宿は、心身ともに充実した彼の姿を余すことなく伝えてくれ、それと同時に、この大会に賭ける覚悟の強さを教えてくれるようだ。
 いつの日か、彼の決断が日本マラソン界のブレイクスルーだったと振り返る日が来るのではないだろうか。
 メダルまであと少しという足跡を残し、次代の選手に夢を持たせたことが「最後の役割として陸上界に残したものじゃないかと思う」2021年8月9日付・日本経済新聞朝刊)と語るレジェンドへの密着取材を掲載した本誌は、書店をくまなく探す価値のあるバックナンバーとなるに違いない。
 その他にも、福島県須賀川市出身の相澤晃と、同郷の円谷幸吉を重ねたノンフィクション「57年目の忍耐(藤島大)」や、MGCで破壊的独走劇を見せた設楽悠太への独占取材に加え、瀬古利彦、谷口浩美、高橋尚子、野口みずき、伊東浩司、朝原宣治、為末大、高野進、末續慎吾など、陸上競技ファンにとって必見の対談が満載です。

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