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フツーの会社員だった僕が、青山学院大学を箱根駅伝優勝に導いた47の言葉

フツーの会社員だった僕が、青山学院大学を箱根駅伝優勝に導いた47の言葉
著者
出版社 アスコム
出版年月 2015年12月
価格 1,300円
入手場所 市立図書館
書評掲載 2019年1月
★★★★☆

 陸上競技は渋い。
 まして、修行僧のように耐え忍び、感情表現を抑えることが求められる長距離競技においては、指導者も多くを語らない職人的気質が多いなかで、この人物の存在感は群を抜いている。
 著者は青山学院大学を箱根駅伝初優勝に導いて以降、バラエティーやワイドショーなどに頻繁に登場し、一体いつ学生指導に携わっているのだろうかと疑問を抱かせながらも、まるで軽々と箱根駅伝四連覇の偉業を達成している。

 従来のマラソン・駅伝指導者像は、選手として名を馳せた人物が母校の監督に就任する例が大半であったと思う。
 一方で著者は、選手引退後に会社員生活を送り、全く畑違いのチーム監督として成功した。
 経歴からして異例ずくめなのだが、まさかここまで安定し、圧倒的な強さを誇るチームに育つことを誰が想像できただろうか。
 長らく学生駅伝を展望している私にとっても、同校の活躍は驚きだった。
 同校が活躍しだした当初の印象は、学校のブランドと、体育会系らしからぬ新鮮なイメージが魅力に映り、一時的に有力選手に恵まれただけだろうと、白々しい感覚を抱いていたほどだ。
 だが、その後の活躍は目を見張るものがあり、ふと図書館で目についた本書を手に取り、著者の信念に思わずうならされてしまった。

 これまではひたすら指導者に従うことが是とされ、学生の自主性などは一顧だにされないことが「体育会の常識」だったはずだ。
 しかし著者は選手引退後に会社員としての仕事を経験するなかで、自分で考えられる人間になる。これはビジネスにおいても、スポーツにおいても、個々の成長に重要な資質だと私は考えています。自分で考えられない人は上司や指導者の言うままに行動するだけで、ある程度までは成長できても、そこからさらに上に伸びることはできません。また、自分で考えられないと、仕事そのものが楽しくなりません(P126)と、押し付けではなく、メンバーが自主的に行動するように促すことこそ、指導者の役割であると考えている。
 たしかに、私自身も会社員として勤めているが、著者の感覚に対しては全く違和感がない。
 むしろ、昨年の日大アメフトチームによる悪質タックル問題など、これまでの旧態依然とした組織体制の方が、一般社会からは異様に映る。

 著者はこうした上意下達の組織では学生が育たないと考え、競技能力を高める以上に、人として成長させてあげられるかどうか。極端なことを言えば、社会に出て役に立つのは、速く走ることより、組織の中で生きるための人間性です(P153)、社会人になっても役立つ能力を、陸上という競技、そして箱根駅伝というコンテンツを通して、伸ばしていくのが私の指導方針です(P155)と、学生の将来を見据えた長期的な展望を持っている。
 もちろん、自主性を重んじる組織の育成には時間を要するし、お互いの信頼関係がなければ成り立たないだろう。
 だからこそ、著者は結果を出すことを急がず、育成システムや環境づくりという「土壌」改善を優先した。
 いまや監督が一時的に不在であっても、容易に崩れない太い「幹」こそ、その成果と言えるだろう。
 そういえば、今年(2019年)の箱根駅伝こそ総合優勝を逃したものの、往路6位の悪い雰囲気を断ち切り、復路新記録の猛追を見せたことは記憶に新しい。
 負けてもなお強しの印象を残したチームは、近年は青学以外に見たことがない。
 なるほど、強い組織は何が違うのかが、本書を読んで理解できる気がする。
 陸上競技指導者の書いた本、というだけではなく、人材育成や組織のマネジメントで心掛けたいメッセージが伝わってくる一冊です。

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