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スポーツを仕事にする!

スポーツを仕事にする!
著者 生島淳
出版社 ちくまプリマー新書
出版年月 2010年9月
価格 \720(税別)
入手場所 平安堂書店
書評掲載 2010年10月
★★★★☆

 スポーツジャーナリストとして活躍し、「駅伝がマラソンをダメにした(光文社新書)」や「監督と大学駅伝(日刊スポーツ出版社)」などの駅伝をテーマとした書籍も出版している生島さんは、これまでにも、スポーツと経済・経営を結び付けた切り口を読者に提供してくれている。
 なぜ駅伝をテーマにした書籍が多いのかと言えば、それが大学経営における「費用対効果」に優れ、スポーツと経営を語る上で最も分かりやすい題材だからに他ならないだろう。
 本書では、自身がなぜジャーナリストを志すに至ったのか、なぜスポーツと経営との関係に注目するようになったのかを振り返りながら、昨今のスポーツを取り巻く環境が大きく変化していることを伝えようとしている。
 それは、著者の言葉を借りれば、従来の「素質」「努力」「技術」の勝負に加え、「知恵」が求められている点だ(あとがきより)。
 そういえば、スポーツに関連した仕事に就く、と言うと、ひと昔前ではプロ野球選手やJリーガーなど、才能に溢れた一部のプロアスリートぐらいにしか門戸が開かれていなかったように思うが、今ではマネジメント会社が急成長するなど、幅広い職業が続々と生まれている。

 著者は、スポーツの「する・みる・ささえる」活動のうち、特に「ささえる」仕事に携わる関係者への取材を通し、なぜその仕事を志したのか、どのような能力が求められるかなどについて教えてくれていて、漠然と「将来はスポーツに関わりたい」と望んでいるジュニア世代、あるいは就職活動を控えた大学生らにはうってつけの内容と言えるだろう。
 特にここ数年、日本のプロ野球も球団経営における収支悪化や、それに伴う大型買収などが大きな社会問題となるなど、スポーツと経営に関する課題がクローズアップされている。
 つまり、スポーツに関わる上で、経営的視点や国際感覚が欠くことのできない能力となっている。

 そんな混迷の時代を象徴するかのように、これまでスポーツとは直接的には縁のなかった大学が、続々と「スポーツ系」課程を創設している。代表的な傾向が、経済系学部に、スポーツマネジメント課程が新設される動きだ。
 本書は、伝統的な「体育学」や、「学校体育」を専門的に学ぶ強みを教えてくれる一方で、比較的新しい分野である「スポーツ系」課程の特色を探りながら、様々な受験生のニーズに応えようとする大学側の経営的な思惑をも明らかにしてくれる。

 折しも、今年(2010年)に行われた箱根駅伝予選会では、伝統的な体育学部を有する古豪・順天堂大学が、2年連続で本大会への出場を逃した。
 高校生のスカウト活動がうまくいかず、優秀な選手が育たないということは、すなわち大学の魅力が損なわれていることに他ならない。
 著者は、既存の体育大学はPRを有効に行うことで、一段のレベルアップを促す一方で、キャリアの形成に幅広い選択肢を与える「スポーツ系」課程の成長を喜んでいる。
 なぜなら、そうすることで、大学間の競争が生まれ、ひいては日本のスポーツ環境が更に活性化するのだから。
 いや、それだけではない。経営的センスのある著者のことだから、スポーツに親しむ土壌が拡大することで、自身の活躍の場が広がることも織り込んでいるのかもしれない。

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