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一歩60cmで地球を廻れ

一歩60で地球を廻れ
著者 比企啓之、
土屋敏男
出版社 ワニブックス
【PLUS】新書
出版年月 2009年10月
価格 \760(税別)
入手場所 Amazon.com
書評掲載 2012年4月
★★★★☆

 2年強もの長い歳月をかけてゴールした「間寛平アースマラソン」。
 北半球の18ヶ国を自らの足と自然の力だけで駆け抜けるという、壮大な冒険の様子は、自著「魂のゆくえ」に詳しいが、それに至る経緯や、何のために走るのかという目的については触れられておらず、強く共感するまでには至らなかった。
 そんな時に、同時に購入した本書を読んで納得した。
 本書の著者のひとりでもあり、日本テレビでディレクターを務める土屋敏男は、寛平の企画に賛同すると同時に、ふとした疑問を投げかけてみた。
 すると寛平は「いまでもよーく覚えとる。(ゴルフ帰りに)木更津のローソンを過ぎたあたりで、急に「地球一周走る!」と降りてきたんや(P16)」と軽い口調で答えてしまう。
 そんなやりとりが、これほど壮大な冒険のきっかけになったというのだから、彼の探究心、夢想力、そして破天荒な思考には驚かされるばかりだ。

 著者は、前述の土屋と、かつて寛平のマネージャーを務め、現在は吉本興業の関連会社で社長を任されている、比企啓之(ひきひろゆき)。比企は洋上でヨットを操り、寛平とアースマラソンをともに行動した人物で、寛平の自著のなかでも何度となく登場する「名脇役」だ。
 一方の土屋は、メディア産業に関わる立場から、インターネットを介したメディアコンテンツの可能性に挑戦しながら、アースマラソンを間接的にバックアップしていく。
 たとえば、従来の衛星中継では、24時間マラソンに代表されるように、何時までにゴールにつかないと生放送に間に合わない、応援メッセージはごく一部だけしか紹介できないなどの制約があったが、インターネットの自由度の高さを生かし、「テレビではできないことをやる(P76)」ことが大切だと挑戦しようとする、メディア側の強い意志も垣間見られる。
 そんな意味では、本書は「アースマラソン」というコンテンツがビジネスとしてどのような存在であったかを確かめるために、非常に有用だ。
 もちろん、本人には銭勘定は本意ではないにしても、これだけ壮大な冒険を成し遂げるためには資金集めは切っても切れない悩みだろう。

 ところで私は、寛平が地球一周に挑戦するという話題を聞いた時、やや醒めた印象しか抱くことができなかった。
 24時間マラソンのように、至れり尽くせりのサポートに支えられ、感動の押しつけに終わるのではないのかと思っていたが、本書と、寛平の自著を読んで、改めて生死を賭けた真剣勝負だったことを知り、羞恥が込み上げてきた。
 比企が荒れ狂う洋上でのヨット生活を思い浮かべながら、「洋上で僕が起きたら、寛平さんが船上にいてないこともあるかもしれないって、ずっと不安でした」、「ヨットでは落ちたら、お終いなんですよ。(P164)」と語る数行には、血の気が引く思いすら感じてしまう。

 それにしても、比企こそ40代後半だが、土屋や寛平は50代後半という年齢でありながら、前人未到の挑戦を嬉々として行動してしまうのだから、自分たちも大きな勇気をもらった気がしてしまう。
 「夢」なんていう言葉を使うのは気恥ずかしい年齢になったと思い込んでいたが、アースマラソンからは、「夢」の力の大きさを教えてもらったような気がする。
 巻末に添えられた毎日のエピソードもコンパクトかつ、非常に分かりやすくまとめられている。

関連書籍:「魂のゆくえ

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