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ランニングの科学

ランニングの科学
著者 藤井徳明
出版社 スキージャーナル
(SJセレクトムックNo.86)
出版年月 2009年6月
価格 \1,500
入手場所 平安堂書店
書評掲載 2009年5月
★★★★★

 ここ数年のランニングブームに伴って、書店に並ぶランニング関連の書籍も年々存在感を増してきている。だが、それら著者の顔ぶれは似通っていて、多くは、マラソン解説者としてマスコミ露出度の高い、一部の元有名選手による著作が中心だ。
 そして、彼らの著作の多くは、科学的で難しい内容は省略し、ランニングの魅力を語り、マラソンの世界へいざなうような啓発的な内容があふれている気がする。
 そんななかで、本書は異色の内容だ。

 まず、著者の経歴が異色だ。もちろん名前はこれまでに聞いたこともない。
 それもそのはずで、競技の世界で過去に活躍したとか、優秀な記録を出したわけでもない。スポーツを趣味で楽しむ一介のサラリーマンだ(本書によると、肩書は「本田技術研究所エンジニア」)。
 そして、内容が異色だ。
 当初はあまり期待もしないで、パラパラめくってみただけだったのだが、表紙の軽快な印象とは異なり、専門用語がバンバン登場し、あまりに高度で科学的な内容が溢れていることに、思わず目が点になってしまった。
 そうかと言って、本書は決して目新しい知見や、斬新なトレーニング方法に言及しているわけではない(ただし、大胆な仮説は多数紹介されている)。
 ランニングフォームや、栄養と休養など、どれもこれまでどこかで聞いたことがあるようなテーマばかりなのだが、自ら(とその仲間たち)を被験者にし、これまで「科学的」とされていたことをトコトン試しながら、実験と経験に基づいた、実に多角的な分析を披露してくれる。

 それだけに、スポーツ科学や医学的な予備知識がないと、やや難解すぎる記述は否めない。
 至る箇所に分かりやすいイラストや、ユーモアたっぷりのコラムなどはあるのだが、私自身、難解な化学式などは読み飛ばしながらも、とりあえず通読するのに8時間ほどはかかってしまい、読み終えた後はぐったりしてしまうほど、頭が疲れてしまった。
 そんな意味では、ランニングという単純なスポーツの奥深さを改めて教えてもらったと同時に、「なぜ練習によって速くなるのか」という不思議な人間のメカニズムについて、大いに考えさせられた。

 これまでも、「スポーツ科学」関連の書籍を何冊も読んできたが、その大半は、大学教授の研究分野として、実験室での結果が一部の論文集に掲載されるだけの、狭い領域であったように思うが、本書は学者の世界から、我々にも分かる言葉に噛み砕いて翻訳してくれたような画期的な一般書だ。
 しかも、その実験方法や考察については、さすが工学系のエンジニアらしく、物理の法則やデータを駆使していて、専門家も真っ青の論理的な分析だ。
 ハートレートモニターや血中乳酸測定器などは当たり前で、専門的な文献や学説も惜しみなく紹介されていて、たったの\1,500は破格のバーゲン特価だろう。
 巷に流れるランニング関連の情報は数多しと言えど、科学的な本質を見誤らないためにも、本書はすべてのアスリートに自信を持って推薦できる一冊だ。

※ 著者は、これまでにも、同社から「ロードバイクの科学」や「スノーボードの科学(T〜V)」など、多数の著作があることから、かなり本格的なアマチュア・サイエンス・ライターと思われる。会社勤めで、休日は全国各地のレースに出場する中で、これだけの本を出版してしまうことに驚きを隠せません。

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