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小山裕史のウォーキング革命

小山裕史のウォーキング革命
著者 小山裕史
出版社 講談社
出版年月 2008年2月
価格 \1,500
入手場所 平安堂書店
書評掲載 2009年3月
★★★★☆

 ここ数年、ランニングブームに伴って、「ウォーキング」と題された書籍が数多く書店に並んでいる。
 その多くは、難しい理屈は抜きにして、誰にでもすぐに実践可能な基本的な内容で、明るい印象の表紙や写真を見ているだけで、気持ちが弾んでくるつくりが中心だ。
 しかし本書は、一般に「ウォーキングの本」と聞いて思い浮かべる、そのような軽快なイメージとは全く異なる、実に学術的で難解な内容だ。
 それもそのはずで、自身が提唱した「初動負荷理論」研究が、文部科学省の「学術フロンティア研究プロジェクト」などに採択されるなかで、「ウォーキング」についても同理論の一環として研究中だとのこと。
 「初動負荷」の言葉から受けるイメージと「ウォーキング」は容易に結びつかないが、同理論の目的の一つは、筋の共縮を抑えることである。
 著者曰く、従来の解説書で唱えられてきた「ウォーキング前後のストレッチ」はナンセンスであり、初動負荷理論に基づくことで「歩くこと自体が、ストレッチとなる(まえがきより)」と言う。つまり、本書はまさに初動負荷理論のウォーキング版なのだ。
 従って、最新の研究論文のエッセンスとも呼べる本書は、筋電図や脳の機能などの専門用語が頻繁に登場し、とても気楽な気持ちで読むことはできない。
 もちろん、確かに難解ではあるのだが、本書は身体運動的、解剖的、脳神経的などの観点から多角的に分析した画期的な内容であり、これほど深く、科学的にウォーキングを調査した研究は、他に類を見ない。しかも論文という形式ではなく、手軽な値段で一般書として市販されているのだから、とても贅沢な一冊だ。
 そして肝心の内容については、まさに「ウォーキング革命」と呼ぶにふさわしい、眼からウロコの新理論に満ちている。
 従来ウォーキングの理想は、ファッション・ショーなどでのモデル、あるいは最近では古武術における、いわゆるナンバ歩きが良いと言われてきたが、著者はそれらを否定する。
 それだけではない。著者は、理想的な歩き方に近付けるために、シューズに関しても革命的な理論を提唱し、ハイヒールはもちろん、クッション性の高いスニーカーや、一部のウォーキングシューズすら、「合理的に歩くことには不向きな要素がある(P154)」と、これまでの常識をことごとく否定してゆく。
 では、一体どのようなシューズを履き、どのような歩き方をすべきなのだろうか。もちろんその答えも本書にある。

 まず、シューズに関しては、著者が率先してメーカー(デサント)と共同開発したシューズが紹介されている。「BeMoLo(ビモロ)」と名付けられたそのシューズは、初動負荷理論に基づく歩き方を実践化するため、様々な革命的なアイディアが盛り込まれていて、値段も1万円強と、決して一般的なシューズに比べて高額というわけではない。
 また、「歩き方」についても従来の常識からは随分と乖離しているので、「え、こんなフォームなの?」と面くらってしまうかもしれない。詳しくは、ぜひ本書(特に最終章)を読んでもらいたい。

 しかし、更に驚くべきはその効果だ。本書によると、これら初動負荷理論に基づいたシューズと歩き方を続けることで、外反母趾や腰痛も緩和されるという。
 もしそうだとすれば夢のような話で、長年外反母趾に悩まされてきた私にとっては、にわかに信じられない。だが、初動負荷理論の提唱当初も、あまりに画期的で奇抜な理論であったために周囲の反発もあったようだが、伊東浩司ら数々のトップアスリートが師事し、これまでの常識を何度も覆してきたことは周知の通りだ。
 しかも、今回は対象がトップアスリートだけではなく、「全人類」が対象だ。著者が本書で「歩くことはすべての動作の集約」と表現しているように、歩くという行為が、実はこれほど深い世界だったということを、初めて思い知らされた気がする。

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