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タスキメシ

タスキメシ
著者
出版社 小学館
出版年月 2015年11月
価格 \1,300(税別)
入手場所 蔦屋書店
書評掲載 2015年12月
★★★★☆

 箱根駅伝のエース区間である2区でタスキを受け取り、ほぼ同時にスタートした3人の選手たち。どうやら彼らはとても濃い友情で結ばれた顔見知りのようだ。
 三年ぶりの総合優勝を狙う藤沢大学の眞家春馬(まいえはるま)。
 昨年の覇者である英和学院大学の助川亮介(すけがわりょうすけ)。
 シード権を狙う古豪・日本農業大学の藤宮藤一郎(ふじみやとういちろう)。
 いや、正確に言えばもうひとり、彼らの前を颯爽と走るランナーがいた。
 春馬にして、自分がどんなに速く走ろうと、誰よりも前を走ろうと、そこにはいつも彼がいた(P12)と言わしめる、兄である眞家早馬(まいえそうま)のことだ。

 はて、この早馬くんは既に天に召されているのだろうか、とプロローグを読みながら、この後に続くありがちな回想シーンを予想してしまうのだが、「安心してください、生きてますよ!」。
 それにしても、なぜ「タスキメシ」なのだろうか?
 スポーツに栄養が大切なことは言うまでもないことではあるが、どうも勝負が目的のストーリーではなさそうだ。
 いや、むしろ「タスキ」も「メシ」も食材の一つに過ぎず、あくまでメインディッシュは高校生の友情ストーリーなのだ。
 そして、プロローグに登場する箱根駅伝もまた、本書の主たる舞台ではない。
 そう、ここまでに至る過程こそが、本書のメインステージであり、それは彼らが高校生の時代にさかのぼる。

 初めての都大路を狙おうとする神野向(かみのむかい)高校は、3区の1年生・春馬がまさかの失速で10位まで順位を落としてしまうが、4区の兄・早馬が驚異的な激走で常勝校の水堀高校・藤宮藤一郎を交わし、トップでタスキを繋いだ。
 だがそのレースで早馬は足を痛めてしまった。リハビリ後には陸上部に復帰し、最後のインターハイに臨むのだろうと、誰もが期待していたが、彼はグラウンドに顔を見せることなく、放課後に調理実習室で女の子と仲良くお料理に熱を上げているという。
 俺のせいで足を痛め、偏食の多い俺のために食事を作ってくれているのか?
 それにしたって、俺の目標であり続けた兄が競技を離れ、いちゃいちゃとお料理教室はないだろう!
 しかし、弟が自分と、そして兄を責める一方で、兄は平静を貫いている。
 なぜなら、兄が競技を離れる本当の理由は別にあったのだから。

 当初、本書を読み始めた時は、登場人物の名前が読みにくく、かつ時間軸がバラバラで、ストーリーにうまく乗ることができなかった。
 だが読み進めるうちに、捨て役だろうと思っていた脇役が、実は後半で重要な役割を果たしてくるなど、登場人物の個性を上手に描き出し、感動的なラストシーンへの伏線がきちんと敷かれている。
 強いて言えば、走るシーンではもっと疾走感を加えてほしかったし、大切な箱根駅伝当日の朝食で、繊維質の多いゴボウを食べさせてしまう点など、長距離経験者ならば少々突っ込みたくなる記述も気にはなったが、ラストが上手に締められているので、読後感はすがすがしい。
 そんな点では、部活を始めたばかりの中高生やその親世代に対しては、「安心してください、面白いですよ!」と自信を持ってお勧めできる小説だ。

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