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神の領域

神の領域
著者
出版社 中央公論新社
出版年月 2006年11月
価格 \2,000(税別)
入手場所 bk1
書評掲載 2007年12月
★★★★★

 新横浜にある鶴見川の河川敷で、ひとりの若者の遺体が発見された。
 人気が決して少なくない現場での出来事だけに、解決まで時間はかからないように思えたが、事件をたどるうちに、単なる殺人だけにとどまらない、意外な展開に発展してゆく。

 かつて箱根駅伝を走った経験を持つ担当検事の城戸は、被害者が長距離選手であることに興味を持ち、マニアックなほどの知識を動員して、彼の人間関係や現役時代の成績などを洗い出していく。
 そこで浮上してきた男・久松は、かつて箱根駅伝で城戸をかわして区間記録を更新し、卒業後もマラソンで世界新記録やオリンピックの優勝を成し遂げ、現在は大学の指導者として、箱根駅伝初出場校を準優勝に導くなど、抜群の実績を誇る人物だった。
 関係者からは「神」のような存在と崇められ、学生からの信頼も厚い久松に対し、挫折の繰り返しで、今なお箱根駅伝での途中棄権を引きずる城戸。

 脈絡のないようにみえる人間関係や、単発的な情報をもとにひとつの仮説を立て、事件の核心に迫る様子は臨場感に溢れ、次はどんな展開が待っているのだろうとドキドキしてしまう。
 終盤は、これまで点在していた手がかりを、鮮やかに一本の線につなげ、喉に詰まっていたような不可思議な行動の謎を、見事にひも解いてくれる。

 本書は、箱根駅伝がメンバーだけでなく、大学、家族らを巻きこみ、果ては選手の将来にも影響を及ぼしかねないビッグイベントとなっていることをうまく利用した作品といえ、競技経験者でなければ分からない、選手の細かな心の動きまでも見事に文章に表現している。
 マラソンを舞台にした前作「キング」に続き、長距離ランナーの心をくすぐる記述が心憎い。
 しかし、唯一本当に憎らしいのは、難解な漢字が多いこと。
 小説の世界にどっぷり漬りたいのに、私のような「脳ミソ筋肉くん」は現実の世界に引き戻され、本書の醍醐味を味合うにはちとつらい・・・。

※ 2008年10月・中公文庫より文庫化。

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