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相棒−劇場版
−絶体絶命!42.195km−

相棒
著者
出版社 小学館
出版年月 2008年3月
価格 \1,400(税別)
入手場所 ブックオフ
書評掲載 2009年6月
★★★★☆

 「相棒」といえば、長らくテレビドラマで人気を博した刑事ドラマシリーズだ。表紙カバーを見ていると、なんだかクラシカルな音楽でも流れてきそうな雰囲気だが、本書はその人気シリーズの映画ノベライズ版。
 あいにく私はテレビシリーズを見ていなかったが、劇場版のテーマが「マラソン」と聞いては、居ても立っても居られず、DVDをレンタルさせてもらったところ、実在した事件を彷彿とさせるエピソードを登場させるなど、臨場感があると同時に、つくづくよく練られたシナリオで、思いがけず惹きこまれてしまった。
 それに加えて、常に冷静沈着で紳士然とした杉下右京と、無鉄砲で体育会系の亀山薫が織りなす絶妙なやり取りが、全体を通じて心地よいリズムを生み出してくれるようで、なるほどドラマとして人気となる理由が分かる気がした。

 それにしても、つい最近までは、ランニングは一部のアスリートによる狭い世界だったためか、マラソン大会がドラマの舞台に設定されることは少なかったはずだ。ましてやこのシリーズのようなエンターテイメント色が強い脚本に描かれることは、皆無だったように思う。
 しかし、昨今のランニングブームもあり、マラソンがとても身近になっていることが、この映画を見ていて、改めて気付かされた。特に、タイム計測用のランナーズチップを犯人のトリックとして用いるあたりは、もはやマラソンが誰でも親しめるスポーツになったのだということを教えてくれるようだ。
 それだけに、この映画のシナリオは、なんとなく他人事とは思えない。
 数万人ものランナーと、莫大な観衆が集まる大イベントに成長したマラソン大会が、もしテロの標的となったら・・・と考えるだけで背筋が寒くなる思いがするのだ。

 もちろん、この映画はあくまでフィクションだ。刑事物ドラマの醍醐味は、やはり犯人と刑事の頭脳的な応酬だろう。
 殺人現場に謎の記号を残す、挑戦的な犯人に対し、チェスが趣味の杉下との名推理。
 ひとつの謎を解いても、また新たな謎が浮かび上がるラビリンスを抜け、ようやくつかんだ犯人の真の動機。それはまさに現代日本が抱える矛盾を突くような、極めて根の深いものだった。

 本書は、劇場版とは若干ストーリーが異なるため、映画を見た後で読むと、「アレ?」と肩透かしされたように感じてしまうが、登場人物などの基本的なシナリオはほとんど劇場版と同一だ。
 それゆえに、テレビドラマや劇場版で、主要人物の印象、声、体格などを予備知識として蓄えていた方が、本書の醍醐味がより味わえる気がする。
 本書は(当然のことながら)文章のみで描かれているがゆえに、緊迫感のある曲も流れていなければ、迫力あるスタントシーンの描写にも欠ける。やはりこの作品はあくまで「映画」がメインなのだ。

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