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800

800
著者 川島誠
出版社 角川文庫
出版年月 2002年6月
価格 \590
入手場所 紀伊国屋書店
書評掲載 2003年8月
★★★★☆

 日本の陸上競技の世界では、ハッキリ言ってマイナーな中距離種目。しかも「800(m)」という、陸上競技とは縁がない読者からは、およそイメージがつきにくいタイトルが踊っている。
 いったいどんな内容に仕上げてあるのだろうと楽しみに読んでいくと、「800mランナー」と聞いたときに思い浮かべる(あるいは思い浮かべることのできない)イメージとのギャップを感じるかもしれない。
 おそらく、そのギャップこそが登場人物の強烈な個性を、更に際立たせているのだろうか。

 気性の荒い外向的な性格の中沢と、知的で内省的な性格の広瀬はお互いに800mという種目に強いこだわりを持っている。
 そんな二人の主人公が、それぞれの視点から交互に語っていく構成で、始めのうちは訳が分からなくて戸惑ってしまったけれど、徐々に二人の距離が近づいて、状況がシンクロしてくると、それまで自分勝手にわがまま言いたい放題だった彼らが、次第にお互いを意識した語り口になっていくのがおもしろい。
 汗まみれの練習は嫌いで、結構遊び人で、都会的で軽やかに描かれた二人の主人公が繰り広げる恋愛競争と、トラックでのバトル。
 ストーリーにもスピード感があって、どんどんと読み進めていってしまう。
 今までの根性主義の陸上競技とは一味違って、“今どきの高校生”をうまく表現しているこの作品は、貴重な青春時代を思い出させてくれるようだ。
 
※ 映画になり、DVD・ビデオ化もされています(が、2時間に収めることに無理があるように感じた。配役も、高校生をとうに卒業した俳優が演じているので、爽やかどころかグロテスクにすら見える)。

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