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九州一周駅伝 62年の物語

九州一周駅伝
著者
出版社 西日本新聞社
出版年月 2014年2月
価格 \2,000(税別)
入手場所 Amazon.com
書評掲載 2014年7月
★★★★☆
 Jリーグを頂点とする日本のサッカーリーグをはじめ、最近では野球やバスケットボールの地域リーグが次々に生まれ、将来のトップアスリートを目指す少年たちに夢と希望を与え、地域振興にも一役買っている。
 今でこそ当たり前となった、このような地域対抗戦モデルではあるが、その端緒は一体どこにあるのだろうか?
 それは、「駅伝」にあるのではないかというのは、駅伝マニアである私の思い上がりだろうか?
 本書の舞台となった九州一周駅伝は、毎年晩秋に行われ、まさにその年の「九州No.1」を決める一大レースだった。
 九州7県を10日間かけてタスキでつなぐ壮大な駅伝は、青森と東京を7日間かけて縦断する東日本縦断駅伝(通称:青東駅伝)と並び、都道府県対抗の駅伝として根強い人気を誇っていた。
 私もかつて青東駅伝に出場したこともあるが、地元の一流選手やコーチ陣と同じ釜の飯を食べ、競技意識の高い生活を垣間見ることができたのは、何物にも代えがたい経験だったことをよく覚えている。
 それだけではない。青東駅伝ではあの円谷幸吉をはじめ、数々の名ランナーが走り、世界のトップレベルに駆け上がっていった登竜門として知られていた。郷土の代表として、自分が彼らと同じレースを走ることができるというのは、言葉に言い表せないぐらいに誇らしくもあった。

 だが、名ランナーを輩出しているという点においては、残念ながら九州一周駅伝に肩を並べることは難しいかもしれない。
 1952年に誕生し、2013年に惜しまれつつ幕を閉じた九州一周駅伝。
 62年に渡る長い歴史を辿った新聞記事を編集した本書は、数々の伝説を一頁一話のシンプルな構成で、鮮やかな写真とともに振り返っている。
 その選手たるや、第1回大会で優勝のゴールテープを切った高橋進(福岡・八幡製鉄)を皮切りに、君原健二(同)、宗兄弟(宮崎・旭化成)、伊藤国光(山口・鐘紡)ら往年の名ランナーから、サムエル・ワンジル(福岡・トヨタ自動車九州)、中本健太郎(福岡・安川電機)ら、世界に羽ばたいていった選手の名を挙げていくと、枚挙にいとまがない。

 そんな数々の名ランナーが彩られるなかで、私が一番印象に残ったのは、永田宏一郎に関するわずか数行の記事だった。
 かつて鹿屋体育大時代に突如として日本トップクラスに躍り出て、将来を嘱望され旭化成に入社したが、故障が続き、2004年の納戸賞(九州一周駅伝のMVP)獲得の翌年に退社。
 それでも、その後に鹿児島県代表として出場した、という小さな記事には、夢が破れながらも競技に賭ける彼の強い思いが伝わってくるようだった。

 本書は主催者である新聞社による掲載記事をまとめているため、感情を排し、必要以上のことを語ることはしていない。
 事実とコメントのみを組み合わせた報道調に物足りなさはあるものの、マラソンや駅伝ファンならば、必ずや本書を読みながら、懐かしい選手の名前と顔を思い出し、センチメンタルにさせてくれることは間違いないだろう。
 そして同時に、これほど大規模で地域に密着し、「将来のトップアスリート」らに夢と希望、そして有形無形の経験を与えてくれた意義ある大会の幕が閉じられてしまったことを、本当にさみしく感じてしまう。

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