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体育会力

体育会力
著者 礒繁雄
出版社 主婦の友社
出版年月 2013年10月
価格 \1,400(税別)
入手場所 市立図書館
書評掲載 2015年4月
★★★☆☆
 語学力、読解力、コミュニケーション力。
 それぞれ、外国語に堪能な能力、文章を読み解く能力、他者とのコミュニケーションに秀でた能力なのだろうというのは想像できるが、最近は様々な単語に「力」を付加したタイトルの書籍が増えている。
 たとえば、斎藤孝が著作に用いる「読書力」や「質問力」などは、読むことによって当該タイトルに関連した能力が高まりそうな気がしてくる。
 一方、赤瀬川原平の「老人力」は、一見すると意味不明なタイトルなのだが、物忘れが多いなどのネガティブな印象がある老化現象を、ユーモラスでポジティブな思考に切り替えることによってベストセラーとなった。
 後者は、「老人」という無味乾燥とした名詞に「力」という単語を添えることで、これまで見落とされていた「老人」の個性を際立たせてくれ、タイトルが読者に与える印象を利用した絶妙なマーケティングではなかっただろうか。

 さて、本書も一見すると「老人力」の二番煎じを思わせる奇妙なタイトルなのだが、内容は極めてオーソドックスであり、体育会という組織が社会から求められていることを冷静に分析し、学生を丁寧に指導している様子が伝わってくるようだ。
 ところで、早稲田大学の競走部というと、対外的な露出度が高い駅伝監督である渡辺康幸を思い出すが、実は競走部全体を率いている人物が著者であることは、あまり知られていないのではないだろうか。
 そんな意味では、数々の名選手を輩出してきた伝統ある名門を率いる著者の哲学を知りたいと思う関係者は決して少なくないだろう。

 本書を通じて著者が一貫して語っていることは、競技者としてだけではなく、社会の模範となる人材を育てようとする姿勢であり、特にアマチュアスポーツの花形である陸上競技においては、「早稲田大学競走部」という組織の名に恥じない言動を心がけさせているように感じる。
 たとえば、やり投げのディーン元気らは、様々な媒体を通じてコメントを求められる機会があるわけだが、「自分らしさは失わず、しかし、自分はなぜ強くなったのかとか、なぜ自分がここに在るのかということは、メディアに出る人間はきちんと自覚するべきです。(P34)」と、注目される存在であるがゆえに必要な教育も怠っていない。

 だが、その一方で「体育会」を冠したタイトルをつけていながら、対象領域は自身が経験した陸上競技に限られており、やや視野が狭い印象がぬぐえない。
 本書は「礒繁雄」という人物の指導哲学について語られた一冊であり、「体育会」の新たな魅力に気づかせてくれるとか、もちろんこれを読んで新たな能力が身につくというわけでもない。
 そう考えると、本書のタイトルはただの「意味不明」であり、名門組織を率いる指導者像を前面に出したマーケティングにするべきではなかっただろうかと残念に思う。

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