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奈緒子

奈緒子
著者 作:
画:中原裕
出版社 小学館
(週刊ビッグコミック
スピリッツ)
出版年月 1995〜2003
価格 各\500〜
入手場所 文教堂書店他
書評掲載 2001年2月
★★★★★

 幼少時に父を事故で亡くした走りの天才児「壱岐雄介」が、波切島を舞台に成長していく姿を、父の事故の原因を自分のせいだと、呵責に苦しみながらも雄介を慕う「篠宮奈緒子」の視点から描いた作品。
 スポーツコミックと称されジャンルにおいて、「走る」ことをテーマにした作品は多くない。
 そのような環境のもと、本書のように正面から「走る」ことをテーマにしたコミックが登場したことは、多くの陸上競技ファンから喝采を得るに違いない。
 と思いきや、コアな陸上競技ファンから見ると、作者は果たしてどこまで陸上界のことを理解して作品を書いているのか、と疑問に感じる節が散見されてしまう。

 たとえば主人公の雄介は、小学4年生で100m11秒3、走り幅跳び5m74の天才スプリンター、という設定だ。
 中学に進学すると、全国大会で100m10秒55、200m21秒39を記録すると、その数時間後の1500mでは、「社会人より速い」と言われる黒田を相手に接戦を演じる。
 ちょっと待ってくれ! 社会人より速いと言われるからには、3分50秒前後だろうか? これはいくらなんでも短距離スプリンターが簡単に出せる記録には思えない。
 また、中学駅伝の長崎県大会では、全国大会1500m3位の藤本を相手に、5km区間で3分あまりの差を逆転してしまう。
 藤本の5kmが15分30秒前後であると仮定すると、雄介はこの5kmを12分30秒前後で走破した計算になる。中学1年生が5kmを12分30秒? これはコミックとは言え、いささかリアリティに欠けるのではないだろうか?。

 一方、奈緒子は高1で100mの高校記録を樹立するも、波切島高に転校し長距離に転向する。
 黒田は同じく高1でヨーロッパ選手権一万m3位に入賞。推定27分30秒前後であろうか? そして高2では、5000m13分22秒58の高校記録をオスロで樹立する。ちなみにこの記録は1996年に樹立され、現在も残るジュリアス・ギタヒ選手(仙台育英)のもつ超高校記録である。
 しかし雄介は、その年の師走に行われた高校駅伝のアンカー(10km)で、“黒田級”が勢ぞろいするメンバーを抑えて、1分38秒もの大差を逆転で優勝している。この展開から推測すると、悪くとも10kmを26分台前半で駆け抜けていることは間違いないだろう(繰り返すが、まだ高校1年生だ)。今すぐにでも世界記録の更新と、オリンピックでの金メダルが期待されてしまう。

 更に、波切島高は雄介のワンマンチームと自他ともに認められていたのだが、この駅伝で1区(10km)を走った奥田は、5kmを13分50秒で通過し、世界ジュニア陸上5000m2位のセラ・ボーンを抑えて区間賞を獲得している。
 いやはやレベルの違う世界である。まるで、記録集をペラペラめくって、「まあ、こんなもんかな」とプロフィールを作成してしまったかのようだ。
 ちなみに、およそ30年前(推定)に、雄介の父「健介」は、中学の卒業式で、学校のグラウンドで5000m13分36秒を記録している。長距離に知識が乏しい読者が、この作品にあるタイムを真に受けてしまったら、「5000m14分台? 中学生より遅いじゃん」と鼻で笑われてしまいそう。

 まあしかし、記録の異常さに目を瞑るとすれば、都会の喧騒とは正反対の静かな島を舞台にしているだけあって、純粋な少年達の透明感のあるストーリーとなっているし、絵も丁寧に描かれていて、迫力がある(細かい背景まで、実際の場面をよく観察している)。

※ 雄介がマラソンに挑戦する新章が始まりましたが、ついに完結してしまいました。
※ 2008年2月に実写版が映画化され、同年7月にはDVDも発売。(参考書籍:映画ノベライズ版「奈緒子」)。

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