トップページへ戻る全作品リストへ戻る人物伝作品リストへ戻る

「総合力」で勝つチーム術
−早稲田駅伝チームに学ぶマネジメント−

「総合力」で勝つチーム術
著者 渡辺康幸
出版社 日本能率協会
マネジメントセンター
出版年月 2011年11月
価格 \1,500(税別)
入手場所 amazon.com
書評掲載 2011年12月
★★★☆☆

 2010年度、出雲・全日本・箱根のいわゆる大学三大駅伝で、早稲田大学は全てにおいて栄冠を獲得したことは記憶に新しい。
 個人種目が中心となる陸上競技のなかで、駅伝はチームの総合力が問われる特殊な種目だ。
 まして、距離や区間数が異なる大会すべてで勝利することは、戦力が拮抗している近年の学生駅伝では簡単なことではない。
 そんな偉業を達成したチームを率いるのは、かつて日本長距離界を背負って立つと期待され、惜しまれつつ第一線から退いた著者・渡辺康幸だ。
 本書は、著者がチームを育てるにあたって心がけている点を、企業のマネジメント向けにアレンジした一冊で、目標の共有やリーダーシップのあり方についてイラストを交えながら分かりやすく啓発している。

 史上3校目の大学駅伝3冠。12年振りの箱根駅伝総合優勝。70年振りの関東インカレ男子1部総合優勝。53年振りの日本インカレ男子総合優勝。
 近年の学生競技大会では常に中心的な存在である早稲田大学ではあるが、著者が駅伝監督として就任した7年前は、箱根駅伝でチーム史上最低の16位に沈むなど、シード権すら獲得できない年が続いていた。
 著者は低迷するチームをどのように立て直し、いかにして勝つことにこだわる集団を作り上げてきたのだろうか。
 本書のテーマは「総合力」だが、エースに頼らずにチーム全体を活性化していくことの必要性は、たしかにスポーツだけではなく企業組織と通ずる点が多い気がする。

 ところで私は、著者が母校の駅伝監督に就任する記事を見たとき、肯定的な印象を抱くことができなかった。
 選手としてもっと頑張ってほしいという気持ちもあったが、「天才」であるがゆえに、総合力が問われる駅伝チームを育成することは、彼の手に余るだろうと思っていたからだ。
 しかし、著者が率いて以降のチームは、確実に上昇軌道に乗っている。
 また一方では、現役学生としてオリンピックにも出場した竹澤健介ら、日本を代表する選手が彼の許から巣立っていることは、近年の学生長距離界において稀有な事例であろう。

 このように著者の成し遂げてきた栄光を並べていると、あたかもひとりで何でもこなすスーパーマンであるようだが、本書を読んでいると、むしろ周囲の優秀なスタッフを上手に生かしていることが分かる。
 たとえば、主にBチームの練習を見る相楽豊が、選手に対して厳しい指摘をしてくれたり、学生主務が、選手から距離を置いて冷静に観察していたりするおかげで、著者が目の行き届かない点をフォローしている。
 それだけではない。競走部の礒繁雄監督が主導する、ブロック間の融和が様々な面で功を奏し、「個々の競技力を足し算しただけでは生まれない高い結果が出る(P92)」ことも、競走部全体の一体感を醸成してきた効用といえるだろう。
 そういう意味では、実際に走る選手だけではなく、控え選手、長距離ブロック以外の部員、そして指導陣営という、部全体の総合力の高さこそが、他の大学には見られないポテンシャルなのだろう。
 学生駅伝は毎年選手が入れ替わり、年々競争が激しくなる厳しい世界だが、「総合力」で闘う早稲田の強さは、当面揺らぎそうもなさそうだ。

※ 参考書籍:2008年11月発行・渡辺康幸著『自ら育つ力

トップページへ戻る全作品リストへ戻る人物伝作品リストへ戻る