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伴走者
−陸上に賭けて散った、中村清の苛烈な生涯−

伴走者
著者 木村幸治
出版社 JICC出版局
出版年月 1990年2月
価格 \1,400
入手場所 ブックパワーRB神田店
書評掲載 2001年2月
(2005年4月 改訂)
★★★★★

 瀬古利彦選手をはじめとして、数々の有力長距離選手を育てた指導者「中村清」の生涯をつづり、彼の死後数年を経て出版されたノンフィクション。
 「中村学校」と称されるほど、独自の指導理念で選手を育て、選手を(中村氏の)自宅で生活させるなど、徹底した選手管理や、時には数時間にもおよぶ講釈などは、伝説として今でも語り継がれているが、本書を読むと、その強烈な個性を形成するだけの、濃密な人生であることが窺うことができる。

 日韓併合時代の京城(ソウル)で幼少を過ごした中村は、食べるものすらろくにない時代にあって、奇特に映るほど走ることに苛烈な情熱を注いでいた。
 陸上競技の名門・早大に進学後も我流の練習法を貫き、ベルリンオリンピックに出場するなどの活躍を見せるが、唯我独尊ともとれる言動は、周囲の反発も招き、それは密着指導を常とする後年の姿からは想像できないものだった。
 著者は様々な方面から取材を重ね、中村の転換期が戦時中にあったと推測し、憲兵時代と戦後の数年間に渡る彼を、特に詳細に追っている。
 闇市でわずかな生活費を稼ぎながら母校・早大競走部の長距離コーチを引き受けた彼は、選手時代からは一変して、狂信的な指導者へと変貌していた。

 「中村清とは一体、何者だったのか」そんな惹句がオビを踊っているが、読めば読むほど彼についてもっと知りたくなってくる。
 彼を突き動かしていたものは何だったのか。それを明らかにすることなく、「神様がくれた最高のプレゼント」と称した瀬古利彦との夢である、オリンピックでの優勝をかなえることなく非業の死を遂げることとなる。
 賛否両論であろう彼の指導法は、おそらく(私を含む)第三者には到底理解しがたいかもしれない。だが、これほどまでに熱い情熱を陸上競技にかけた人物は、後にも先にも、彼を置いて他にはいないだろう。
 時代的には一昔前の人物であるが、現在の科学的な指導に欠けた「なにか」を教えてもらった気がする。またとても深い取材がされていて、文章も上手い。読んでいて、いつのまにかのめりこんでいく作品です。

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